名古屋高等裁判所金沢支部 昭和27年(う)221号 判決
被告人若土信義、被告人青山龜次郎、被告人鍋田敬等の本件金品、饗応等収受の各行為は、いずれも、其の職務に関するものでないとの論旨(弁護人Aの論旨第一点、同Bの論旨第一、二点第四点)について。
論旨援用の資料によれば、富山並に高岡労働基準監督署に於ては同署の管轄区域をさらに数地区に分割し、在勤する数名の監督官をして、これ等各地区の一若しくは二以上を、各自の受持区域としてそれぞれ担当せしめ、原則として該地区に所在する事業場についてのみ、法定事項の指導監督、違反行為の摘発検挙等、労働基準法による諸般の事務の処理を為さしめていたものであること労働基準監督官たる被告人等は、それぞれ担当地区内の事業場について、前記のごとき事務に従事していたものであつたこと、被告人等に金品を供与し、又は、被告人等を饗応接待した者の中には、当該被告人の担当地区外に所在する事業場の関係者もあり、これ等の者は、関係事業場の所在する地区以外の地区を担当する監督官の、該監督官の担当する地区所在の事業場を対象とする個々の職権行使については、通常、直接に利害関係を持たなかつたものであることを、それぞれ認め得ないでもないけれども、しかしながら、原判決挙示の証拠、殊に、原審第四回公判調書中被告人杉谷正義の供述記載、原審第二回公判調書中証人竹島育三の供述記載等によれば、前記担当地区なるものは、各労働基準監督署長の定める一応の内部的事務分配に過ぎず、しかも、毎年度変更せられることを例とするものであつて、各監督官は、いやしくも当該所属庁の管轄区域内である限り、或は署長の命により、或は署長の命を俟つ迄もなく必要に応じ、所謂担当地区の内外を問わず、所属庁管轄内の各事業場に対し、自己の有する法定の職権を完全に行使することが出来たものであることを認めるに足る。そうして見れば、被告人等は、自己の担当する区域の外にあると内にあるとに拘らず、いやしくも、それが所属庁管轄区域内の事業場である限り、これ等の事業場に対し、法定事項の指導監督、違反行為の摘発検挙等、労働基準法に基く諸般の事務を処理する職権を有し職務を負うていたものであることが明かであるから、「担当地区外に所在する事業場関係者よりの利益収受は、事務に関係のない者からの利益収受であつて、従つて、被告人等の職務に関するものではない。」との論旨は、到底これを採用するを得ない。